【ロシア文学入門・ドストエフスキー】『罪と罰』(下)をより楽しむためのポイント・あらすじガイド

ロシア文学・ドストエフスキーの傑作『罪と罰』(米川正夫訳)は、深い人間心理と哲学的テーマを内包した重厚で難解な作品だ。

しかし、下巻まできた読者にとっては、登場人物、背景、物語の流れはある程度、掴んでいるであろう。

上巻は登場人物と思想、葛藤の舞台装置を丁寧に組み立てる過程であり、ここから物語は、より深い心理戦と運命の対決へと進んでいく。

いわばここまでは“序章”であり、下巻からこそ『罪と罰』本来の醍醐味が始まる。

本記事では、『罪と罰』下巻を対象に、聴き(読み)どころとして人物の対立構造とそのポイント、上巻・下巻の各篇のあらすじを整理した。

なお、登場人物の説明は上巻に関する記事がより詳しい。また、疑問に思われているので・・?とされる用語や文化的背景など、一部を取り上げてトリビア的にここにまとめてみる。

当サイトはAudibleで“聴く読書”を前提としているが、書籍を読む読者にとっても有益な内容となるよう心がけている。

本格的な読解に進む前の“地図”として、あるいは一度挫折した読者の“再入門”の手がかりとして、ぜひ活用していただきたい。

Audible
¥5,500 (2025/11/05 09:35時点 | Amazon調べ)
Audible
¥5,500 (2025/11/05 09:35時点 | Amazon調べ)
目次

重要な関係性と対立構造(3選)

下巻に入り、物語は「内面の葛藤」から「対人関係の緊張」へと焦点が移っていく。

ここまでに張り巡らされた伏線から、多くの読者が気になっている関係性があるはず…

特に主人公を取り巻く以下の3人との関係や対立は、物語の核心や主題に深く関わり際立ってる。

1. ラスコーリニコフ × ポルフィーリィー(予審判事)

  • 関係性の軸:知性と心理の対決
  • ポルフィーリィーは、表向きは穏やかで丁寧だが、言葉の裏に論理と追及を忍ばせる。
  • ラスコーリニコフは見抜かれまいとするが、次第に内面を揺さぶられていく。
  • 会話劇の中に推理小説的な緊張感が凝縮されている。

2. ソーニャ × ラスコーリニコフ

  • 関係性の軸:罪を背負った者と、信じる者
  • 静かで控えめなソーニャが、精神的な導き手のように描かれ始める。
  • ラスコーリニコフにとって彼女は、自分の理念や苦悩が“試される鏡”のような存在。
  • 贖罪・信仰・愛という重いテーマが、この関係を通して浮かび上がる。

3. スヴィドリガイロフ × ドゥーニャ

  • 関係性の軸:過去と再接近、女性の自立 vs 男の執着
  • 元雇用主であり、かつて問題を起こした男が、再び彼女の前に現れる。
  • 表面上は「金銭的援助」「善意」を語るが、意図は不明。読者にも不安が募る。
  • ドゥーニャの毅然さとスヴィドリガイロフの怪しさの対照が、ドラマ的な重さを生む。
  • なお、スヴィドリガイロフと兄:ラスコーリニコフとの対立も見逃せない。

なお、登場人物については上巻に関する記事に詳しくまとめてある。

罪と罰(上):あらすじ

上巻の流れのおさらいに、ぜひ活用していただきたい。

また、本書は青空文庫にて全文公開されているので参考になるに違いない。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000363/files/56656_74440.html

第一篇

物語の舞台は帝政ロシアの首都ペテルブルグ。貧困にあえぐ青年ラスコーリニコフは、大学を中退し、粗末な部屋に閉じこもるような生活を送っている。

極度の貧窮、孤独、そして将来への絶望の中で、彼の精神は次第に追い詰められ、歪んだ思想に傾いていく。

その思想の実験対象として、ラスコーリニコフが目をつけたのが、高利貸しの老婆アリョーナ・イワーノヴナであった。彼女は貧者から冷酷に金を巻き上げる存在であり、彼は彼女を殺害し、その金を有効に使えば多くの人を救えるのではないかとさえ考える。

周到に下見を重ねたラスコーリニコフは、アリョーナの妹リザヴェータが外出している時間を狙い、斧を手に犯行に及ぶ。

しかし、想定外にもリザヴェータが帰宅してしまい、驚愕と混乱の中で彼は彼女までも手にかけてしまう。彼女は罪のない、むしろ善良な女性であった。

ラスコーリニコフは強い緊張と恐怖、そして自責の念に襲われながらも、なんとか現場から逃走する。その後、彼は高熱を発し、数日にわたって幻覚と混濁の中に沈んでいく。

第二篇

殺人を犯したラスコーリニコフは、熱にうなされながら部屋で寝込み、現実と夢のあいだをさまようような数日間を過ごす。精神と身体の限界が交錯するなか、旧友ラズミーヒンが彼を見舞い、医師ゾシーモフの手配や衣類の世話をするなど、献身的に支える。

やがて、母ポリーナから長文の手紙が届き、妹ドゥーニャが家族の生活を支えるためにピョートル・ペトローヴィチ・ルージンとの結婚を決意したことが明かされる。ラスコーリニコフは、愛する妹が自己犠牲を強いられている現実に憤りを覚え、激しい感情に揺さぶられる。

数日後、ルージンが自らラスコーリニコフのもとを訪れるが、彼の傲慢で支配的な態度に対し、ラスコーリニコフは強く反発し、ふたりの関係は完全に決裂する

その後、酒場でかつて出会ったマルメラードフと再会。彼が馬車に轢かれる事故に遭遇し、その死の場に立ち会う。ラスコーリニコフは彼の家族を助け、ここで初めて娘ソーニャと出会うことになる。

ラズミーヒンを訪ねて集まりの場に現れたラスコーリニコフは、彼とともに自宅へ戻る。そこには、ついにペテルブルクに到着した母ポリーナと妹ドゥーニャが待っていた。

第三篇

ラスコーリニコフは高熱と錯乱のなかで寝込み続け、時折うわ言を口走る。献身的なラズミーヒンは彼を支えながら看病にあたる。

やがて、母ポリーナと妹ドゥーニャがペテルブルクに到着し、久々の再会が叶う。しかし、ドゥーニャの婚約者であるルージンに対して、ラスコーリニコフは強い反発を示し、場は混乱する。その最中にソーニャが現れ、思わぬ鉢合わせとなる。

一方で、ラスコーリニコフは自分が質入れした物がまだ残っていることに気づき、ポルフィーリイ予審判事のもとへ向かうため、ラズミーヒンに取り次ぎを依頼する。

ポルフィーリイの部屋では、警察書記のザミョートフの姿もあり、穏やかな対話を装いながらも、心理的圧力をかけられる。話題は彼の論文に及び、「非凡人には法を犯す権利があるか」という問いをめぐり、鋭い議論が交わされる。

その後、ラスコーリニコフは夢と現実を彷徨う。夢の中、町で見知らぬ男に「人殺し」と罵られ、老婆を再び殺そうとするが、老婆は死なずに笑い続ける。ようやく目覚めた時、妹ドゥーニャの元雇い主で、謎に包まれた男スヴィドリガイロフがそこにいた。

罪と罰(下):あらすじ

以下はネタバレになるので、あくまでも読了後のおさらいで読むと良い。

第四篇

ラスコーリニコフのもとに、妹ドゥーニャの元雇い主スヴィドリガイロフが現れる。彼は別に婚約者がいると語りながらもドゥーニャへの執着を隠そうとせず、一万ルーブルを贈りたいと申し出る。その申し出の意図は不透明で、ラスコーリニコフは強い不信と薄気味悪さを覚える。

続いて、母・妹・ラズミーヒンと共に、ドゥーニャの婚約者ルージンと面会。ルージンは恩着せがましく支配的な態度を取り、ドゥーニャはそれを毅然とはねつけて婚約を破棄する。ラズミーヒンは彼女に好意を寄せつつも、控えめにその思いをにじませる。

その後、ラスコーリニコフはマルメラードフの娘ソーニャを訪ねる。貧しさの中でも信仰を捨てず、家族のために生きるその姿に、彼は静かな感銘を受ける。

終盤では、予審判事ポルフィーリイとの二度目の面会が行われ、知的かつ心理的な駆け引きが展開。ラスコーリニコフは心理的に追い詰められるが、そこへペンキ屋ニコライが突如自白し、事態は意外な方向へと動き出す。

第五篇

ルージンは前日の出来事を激しく後悔し、居候先のレベジャートニコフに当たり散らす。ソーニャを自室に呼び出し、同情を装って金銭を渡そうとする。

カチェリーナは盛大な葬式を望むが、準備は下宿屋のアマリア任せで段取りは滅茶苦茶。来客も品のない者ばかりで、彼女は次々に口論を起こし、精神の不安定さが露わになる。

ルージンが葬儀の席に現れ、ソーニャが金を盗んだと告発。彼女の所持品を調べると、確かに100ルーブリが見つかる。そこにレベジャートニコフが現れ、ルージンが金を忍ばせた瞬間を目撃していたと証言。ラスコーリニコフもその企みの動機を暴き、ルージンの卑劣な策略は失敗に終わる。

ソーニャのもとを訪れたラスコーリニコフは、彼女の純粋さに導かれるように、自らの犯行を打ち明ける。ソーニャは彼に、外へ出て地面に口づけし、四方に頭を下げて「人を殺した」ことを告白すれば許される時言う。

そこに、カチェリーナが発狂し、肺病も悪化し、ソーニャの部屋に運ばれ、そして、息を引き取る。そこにスヴィドリガイロフが現れ、隣の部屋でソーニャとラスコーリニコフの会話を盗み聞きしていたことを仄めかす。

第六篇

スヴィドリガイロフの動きに戸惑うラスコーリニコフ。そこへラズミーヒンが現れ、警察がニコライを犯人としていることを伝える。

ラスコーリニコフは妹を託して別れようとするが、その直後、ポルフィーリーが現れる。彼は、ラスコーリニコフが真犯人だとすでに見抜いていた。若さゆえの過ちと見なし、自首を勧める。逮捕するつもりはなく、最後の判断は彼自身に委ねると静かに語る。

その後、ラスコーリニコフはスヴィドリガイロフと会い、彼の異常な過去やドゥーニャへの執着を知って憤る。スヴィドリガイロフは彼の犯行を知っていることを仄めかしながら、冷笑的な態度を崩さない。

ドゥーニャはスヴィドリガイロフのもとを訪れる。彼はラスコーリニコフの犯行を盾にし、自分に従えば“助けてやる”と迫るが、ドゥーニャは拒み、拳銃を発砲する。弾はかすめるにとどまり、彼女はその場から逃げ去る。

スヴィドリガイロフはその夜、街をさまよい、熱にうなされながら悪夢と幻覚に苦しむ。翌朝、静かに身支度を整えると、雨の中、人気のない場所でピストル自殺を遂げる。

ラスコーリニコフは母のもとを訪れ、理由を告げぬまま別れの言葉を伝える。家に戻るとドゥーニャが待っており、彼はついに自首を決意したことを打ち明ける。

そして最後に、ソーニャに導かれ、ラスコーリニコフは警察署へ向かい、「自分が殺した」と名乗り出る。

エピローグ

ラスコーリニコフの裁判では、自首したことやこれまでの善行、犯行に至った動機や精神状態が考慮され、最終的にシベリアでの懲役8年という寛大な判決が下された。

その後、ソーニャは彼の後を追い、遠く離れた寒冷地へ移り住み、静かに彼を見守りながら暮らし始める。

最初のうち、ラスコーリニコフの心は閉ざされたままだったが、ソーニャの変わらぬ献身に次第に心を動かされていく。

そしてある日、彼はその存在の大きさに気づき、彼女への愛をはっきりと自覚する。それは、彼にとって罪を越えて生き直す希望のはじまりだった。

雑記:さらに知ると面白い・・

用語や文化的背景

用語・役職解説現代的な対応
予審判事
・ポルフィーリイ
裁判前の捜査を担当する司法官。容疑者の取り調べや証拠収集を行う。検察官+知的な刑事
家庭教師
・ドゥーニャ
貴族家庭に雇われる女性教師。経済的には自立の手段だが立場は不安定。住み込み家庭教師や塾講師
官吏・官等制度帝政ロシアの身分制度で14等級あり、名刺に記される。国家公務員の階級制度
公娼制度
・ソーニャ
売春は登録制で合法だった。登録証として黄色の紙を携帯。黙認された公的売春制度
馬車移動手段。経済力や階級の象徴でもある。タクシーや自家用車
下宿・安下宿独身男性や学生などが暮らす安価な部屋。食事なしの簡易宿。学生寮、ボロアパート
カルタトランプ遊び。賭博の側面もあり、遊惰・退廃の象徴。カードゲーム、ギャンブル
貨幣単位
・ルーブル
・カペイカ
1ルーブル=100カペイカ。物語では金額の違いが生活の階層差を示す。1ルーブル(当時)=約3000〜5000円 ※用途により異なる
農奴制度地主に従属する農民(農奴)が土地とともに売買された制度。1861年に廃止されたが、影響は残っていた。中世封建制度に近い。明治前の小作農に相当する側面も。

「罪と罰」を引用した作家

ドストエフスキーは、明治時代に日本に紹介されて以来、多くの日本人作家に多大な影響を与えてきた。

特に現代の作家たちは、彼の文学が持つ普遍的なテーマや革新的な表現技法を自身の創作に取り入れている。

ここでは2点取り上げて紹介する。

湊かなえ・告白

Audible 朗読:橋本愛
¥3,000 (2025/10/28 14:19時点 | Amazon調べ)

湊かなえ氏は、その衝撃的なデビュー作『告白』において、ドストエフスキーの『罪と罰』を引用している 。

湊かなえ氏の作品は、ドストエフスキーと同様に、人間の欲望や心理描写を巧みに表現し、究極の愛は罪の共有、愛と狂気は常に紙一重であることを読者に突きつける 。

佐藤優氏は、『告白』が「理不尽な悪の力」と、特定の教育や環境が個人の価値観や行動、特に「命の重さ」に対する認識の欠如に与える影響というテーマを共有していると分析している。

渡辺修哉が殺人を「悪」と理解できない背景には、生物を有機体として捉える視点の欠如と、周囲の世界が操作可能であるという誤った全能感があるという指摘も、ドストエフスキーが描く「大審問官」の思想や「選ばれた人間」の概念と通じるものがある。
参考:https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h6392

手塚治虫・罪と罰

著:手塚治虫
¥297 (2025/11/05 09:35時点 | Amazon調べ)

手塚治虫もまた、ドストエフスキーから強い影響を受けたと公言している著名な漫画家だ。

彼はドストエフスキーの代表作の一つである『罪と罰』を漫画化しており(1953年)、この作品では主人公の複雑な心理描写を試みるために様々な手法が用いられている。

手塚は、単なる機械であったはずのロボットに自我が目覚めるシーンで同じ画像を複数並べるなど、精神描写を読者に伝える革新的な技術を駆使しました。

また、自身の罪を告白するクライマックスシーンでは、告白が暴動や銃声にかき消されるという対比描写を用いるなど、ドストエフスキーが描く人間の内面と社会の闇を漫画という形で表現しています

参考:https://tezukaosamu.net/jp/manga/282.html
https://www.jsscc.net/wp/wp-content/uploads/a5f5302f5a8eaba1b87770eaa750fb4d.pdf

まとめ

「罪と罰」・本書の題は、それが意味するものを想像を超えて突きつけてきた。

「罪」も「罰」も、結局は他者との関係の中でこそ浮かび上がってくるものなのかもしれない。

ドストエフスキーは、そうした人間の苦悩や葛藤を描くことで、殺人という極端な行為を通じて、もっと普遍的な「過ち」と「報い」の本質を問いかけているのではないか――そんなふうに感じた。

もちろん、読み方は人それぞれだと思う…

本書を読了するには長く、時に難解であるかもしれない。

しかし、オーディブルなら可能になるかもしれない。ぜひトライしていただきたい。

初回30日無料トライアルがおすすめ!(退会も可能)

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

📚 オーディブルで学びと成長を楽しむアラフィフブロガー
✨ 自己啓発・英語学習・AI活用
🕰 隙間時間を活かして知識を深め、人生を豊かにする方法を発信中
📖 「オーディブル」「自己啓発×英語学習」で視野を広げ、「チャットGPT」で知識を深めています
🔗 最新情報はX(旧Twitter)で発信中!ぜひフォローしてください。

コメント

コメントする

目次